吉季工房
〒517-0701
志摩市志摩町片田4551-5
TEL:0599-85-6316
志摩は海女の国。初めて見た海女の姿。力強く、限りなく優しく、絶え間のない笑い声。僕は海女を銅版画に刻む。未だ絶えない海女への熱い思い。海と海女とそれに魅入るちっぽけな僕

吉田賢治(kenji yoshida)
銅版画家/吉田賢治(kenji yoshida)

1951年
名古屋生まれ
1975年
愛知県立芸術大学デザイン科卒業
1990〜1997年
<海外展>トルコ、スペイン、韓国、タイ等
1977〜2009年
<グループ展>磯田皓と10人の作家達展(愛知県美術館)
現代版画 IN NAGOYA(愛知県美術館) 他多数
1975〜2016年
<個展>東京銀座松屋、松阪屋本店、ミキモト他35回
作品収蔵
トルコ・ディルメンデレ現代美術館(トルコ共和国)
志摩観光ホテルベイスイート
鳥羽市相差町海女文化資料館

春三月。静まり返った浜は、これから半年間続く漁に海女達の期待に満ちた笑い声でにわかに活気づいてくる。三月といえども海は山からの冬の雪解け水が入り込み、海女達にとってしばらくは厳しい時期である。
 体すべてで季節の巡りを知る場所で暮らす幸せ。私にとって季節の暦は海女を中心に動いているようだ。志摩に移り住み、ずいぶん長い年月が過ぎた。初めて見た海女の姿、初めて接した海女の文化に不思議な空間に入り込んだような錯覚を覚えたことを思い出す。私の暮らす布施田という町は今でこそ漁船は英虞湾にある港に係留しているが、移住した当時船は漁が終われば浜に引き上げられ、漁のある朝海女達が声を張り上げて海に船を押し出していた。その勇壮さに浜はまるで祭りのような賑わいだった。海に押し出された船に飛び乗り、磯をめざし、体力が続く限り海に潜り生きる糧を獲る。その姿をみるたび心の奥から分泌する熱いものが全身を駆け巡り、私は夢中になってスケッチブックを抱え浜を走り回った。浜の景色は少しづつ変わっていくけれど海女達の姿は今も変わらない。きっとどんなに時代が動こうとこの姿は永遠に続いて行くだろう。
 宇宙の中の地球。海が作られ、その海から生命が生まれ今へと続く。海こそ命のふるさとだ。その海で生きる糧を獲る海女。女性として海女もまた生命を生むこと。このすべての根源を思う時、私の絵を描く本能は大きく揺さぶられていく。
 秋になり、心なしか静かになった浜。今年も最後の漁に海女は出ていく。それを見送るスケッチブックを片手にした私。



Copyright - © Kenji Yoshida 2011 All Rights Reserved. Produced by T2.